2016年8月3日水曜日

「治った・治ってない」は誰が決める!?

病気は何をもってして「治った」「これでOK」と言えるのでしょう?

実はコレ、誤解が非常に多く、特に歯科医療の現場では混乱の一因となっています。にもかかわらずあまり話題になることがないので、ちょっと書いてみます。


たとえばカゼをひいて頭が痛いとき、会社を休み内科に行って薬をもらってきます。それを飲んでしばらくおとなしくしていれば、痛みも取れてまた会社に行けるようになったとします。痛みがなくなればもう内科に行く必要はありません…というのが普通だし、一番よくあるパターンだと思います。

ほとんどの方は病気というものはこういうものだと思っており、「治った」と判断するのは自分です。治ったかどうか確認するために「また来てくださいね」とはなかなか言われません。頭痛が解決していればそれで良いのです。

しかし歯科の場合は、そういうわけにはまいりません。

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たとえばムシ歯で神経が感染し、痛くてどうしようもないので神経を取らなくてはならなくなったとします。神経をとれば、一応は痛みはなくなります。しかし、これをカゼと同様に「治った」と勝手に判断し、来なくなってしまう患者さんが普通におられます。

初日は神経を取るだけで時間がきてしまうことがほとんどです。後日、もっと丁寧にお掃除をし、中を詰め、最終的には人工物で歯の形を復元しなくてはなりません。

その治療と併行して、そもそも悪くなってしまった原因を、すなわち「歯が磨けてなかった」という事実を改善していくように練習をし、人工物が長く使えるような人に変っていただかねばなりません。再発予防です。

ここで面倒くさい!と思われた方は、残念ですが解決のチャンスを自ら放棄し、将来歯を失い続けるサイクルに入ることになります(←キビシイけど現実!)。

歯周病もまったく同じですが、こちらは自覚症状がない場合がほとんどなので、急性で痛みがあるとき以外は「別に痛くないから」と、歯科医院からの忠告を無視して治療が中断になるのも普通の話です。

そのうち勝手に「治ってる」と自分にだけ都合が良い判断にすり替えてしまう、これも普通です。

しかし原因が解決していませんから、再発悪化を繰り返します。

歯周病の場合、原因とは何でしょう?一般的には「歯石」が付いているのが原因なので、それさえ取ってもらえばだいじょぶと判断する人が多いのではないでしょうか。しかしこれは大きな間違いです。歯石は原因ではありません。

歯周病の原因は「細菌感染」と、それに対する「免疫」の問題です。歯石はゴツゴツしているので細菌が絡みやすくなるだけで、本来病原性はありません。たしかに歯石をとれば病原菌の数は減りますが、ゼロにはなりません。それでも残った細菌の影響をなお強く受ける方は多く、また一度減った細菌数がそのまま安定し続けることはありえません。細菌検査などで、再発の兆候を未然に把握する必要があります。

以上のように、歯科の場合は「治った・治ってない」の自己判断はほとんどできません。しかし多くの方がカゼと同様の判断をしがちになってしまいます。病院にはできるだけ行きたくないという気持ちも強く働いているのも間違いないでしょう。

患者さんとは本来弱者であるわけですが、なにも考えないのも困ります。歯界医院の指導力不足もありますが、指導に時間が割けないような制度の欠陥を放置し続けている行政こそ問題です。

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ムシ歯は決して「治る」わけではありません。悪くなった部分を精密に削り取り、人工物で補うことを、なぜか「治る」と言われます。健康保険用語ではりっぱに「治癒」と表記します。もちろんこれはケガや病気が治るのとはワケが違います。

一部の人が「ムシ歯は削らずに再石灰化で治すもの」と豪語していますが、それは目に見えない程の初期のごく小さなムシ歯のことで、この誤報に現場はたいへん迷惑しています。

同様に歯周病も初期の歯肉炎の段階なら治りますが、骨や歯肉が大きく欠損してしまった場合は、一部再生はあるものの100%元通りになることはありません。多くの場合は歯周病の炎症が解決して「進行が止まる」ことを「治る」と言っています。これも皆さんが考える「治る」とは程遠い状態なのではないでしょうか。

もちろん医科でも患者さんが勝手な自己判断で治療を中断してしまい、たいへんな事になる例で溢れています。糖尿病を放置してしまう人などはよく知られた事ですし、結核の治療を勝手に中断し、きちんと薬を飲まなかったために耐性菌を造り、それを周りにばらまいてしまうなど、取り返しがつかないだけでなく、周囲にとんでもない迷惑をかけてしまうことが頻繁にあるわけです。

ということで「治った・治ってない」は、患者さんが決められる事ではありません。また治ったにしても、その後に続く予防が徹底されていないと、再発は簡単におきます。再発後はカゼのように元に戻るものではなく、もっとひどい結果として帰ってきます。それが歯を失う大きな原因です。みなさん、チェックは信用の置ける医療機関で、きちんとしてもらってくださいね!