2016年3月18日金曜日

隠れ栄養失調の読み方・ 2 ASTとALT


総蛋白」からの続きです。

血液検査で必ずと言ってよいほど測る項目に ASTとALT があります。昔は名前が違って GOT と GPT と呼ばれていましたが、同じものです。

両者とも、一般的には肝炎を診断するときの代表的な指標です(ほかにもいっぱいありますが)。肝臓の細胞が炎症をおこし壊れると、その中にあるASTとALT というものが血液中に漏れてくるので、通常よりも数値が上がります。だいたい40を超えると、ちょっとどうしようかなという事になりますが、それ以下で基準値に入っていれば機械的に異常ナシと言われるのが普通の検査の結果です。

しかし栄養医学療法はそうではなく、ASTとALT とは本来何をしているのかという点に着目します。他の検査項目や食事記録と照らし合わせ、それがきちんと働いているかを読むわけです。

では本来の働きとは何か。いくつかあるのですが、代表的なのは、肝臓でアミノ酸を他の形に変換する酵素(触媒)としての働きです。

ALTはアラニンというのをピルビン酸というものに造り変える酵素で、ASTはアスパラギン酸というものを同じくピルビン酸に造り変えます。ざっくり言えば、タンパク質をきちんと動かせるか(代謝っていいます)の指標となるわけで、これは生命活動の基本です。

このピルビン酸は連続して糖(グルコース)に変換され、血糖値(血液中の糖分)を一定量に維持します。これを「糖新生」と言いますが、AST ALT の動きが悪いと糖新生までうまくたどり着かず、食後4時間くらい経って血糖値が落ちてきても歯止めがきかずに下がりすぎたりします。ここで眠気やハギシリ・不定愁訴が出やすくなります。

おもしろいのは、ALTは筋肉の中ではピルビン酸をアラニンに造り変える酵素として働きます。つまり、さっきの肝臓とは逆です。そのアラニンは血流に乗って肝臓に戻り、またピルビン酸から糖へ変換…つまりグルグル廻っているのです。これを「グルコース アラニン サイクル」と呼んでいます。

ということは筋肉の量がある程度ないと、タンパク質はうまく廻らない=全身の代謝や活性が低い、すなわち不定愁訴が出やすいという事になります。

タンパク質がどれだけ動いているかを診る指標としては、ほかにBUN(尿素窒素)とか LDH(乳酸脱水素酵素)なども必要です。特にBUNは重要なので、また後でお話しいたします。


肝機能に異常がなく正常にタンパク質が動いているとすれば 、AST も ALT もだいたい20~25になることが経験的に知られています。



ところが調べてみると、かなり低い方が大勢いらっしゃいます。15以下ともなると、歯周病やインプラントの長期維持管理はちょっと難しいのではないかと思います。細菌からの攻撃に耐える力もだいぶ落ちているはずです。基準値には入っているとはいえ、それは肝炎の可能性を診るための指標ですので、タンパク質の代謝を考えれば明らかに低いのです。


さてほとんどの場合、ASTよりもALT の方が低い事に気がつきます。実はその理由が重要です。

採血をすると検査会社の営業マンがきて、採血した容器(採血菅)を会社に持って行きます。そこには自動測定器があって、多くの項目がすぐに出てきます(日数がかかる検査もありますが)。

ここで一つ疑問があります。採血〜測定には数時間のタイムラグがありますが、その時間内に血液が変質することはないのでしょうか。ナマ物ですから時間だけではなく、運搬中の振動や気温による影響はないのでしょうか。つまり、採血後にすぐ測るのと数時間後での違いはないのでしょうか?

実は「ある」のです。

特にALTは血液中のタンパク分解酵素の影響をモロに受けて、値がどんどん下がっていきます。これでは信憑性がありません。そこで分解されないように工夫した専用の採血菅があるのですが、なぜか日本だけはそれを使えません。理由は不明です。

ということで、日本の検査データーは国際的な研究や診断と比較もできない不思議な状況なのです。コマッタコマッタ(´・_・`)

で、さらに重要なのはここからです。

先ほどの採血菅の工夫とは何かと言うと、中にビタミンB6が入っています。ALTはこのビタミンB6があることで初めて働き安定し、タンパク質分解酵素の影響も受けにくくなります。つまり時間の影響を受けにくくなり、正確な値が出てきます。

すると、そうではない日本の検査においてASTとALTに差がある方は、最初からビタミンB6が不足していると予想がつきます。

事実そのような方に肉など十分なタンパク質食べていただきながらビタミンB6をサプリメントで補給していただくと、数値が20くらいで揃ってくる同時に、不定愁訴のいくつかは解決しています。

ビタミンB6はいろいろ理由があって、他のビタミンB群(1.2.12.ナイアシンなど)とセットで不足します。ですから市販のサプリメントのほとんどがセットになっています。

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ASTとALT の読み方が難しいのは、例えば何か薬を飲んでいると肝臓に負担がかかりそれだけで数値が上がる事です。隠れ栄養失調があるのに薬を飲んでいると、下がっているところに上がる要因が加わるので、見かけ上は良い値に見えることがあります。これを「マスクされている」と言い、マスクに騙されないようにするためにも他の検査データーや食事記録と照らし合わせる必要があります。

γ-GTPという検査項目があるのですが、これとAST ALT の数値が揃うと、だいたい正常でマスクもないと判断します。

また溶血傾向がある方や、ランニングなどの衝撃で足の底で赤血球を押しつぶしている方は、赤血球中のASTとALT が壊れて漏れてくるので、測定値が若干上昇します。

検査とはすべてそうなのですが、初回はマスクが多すぎて判らない項目が多いことを念頭に置かなくてはなりません。初回の結果を推理して食事改善などをしていただくと、二回目の検査でマスクが外れてきて本来の値が出ることがよくあります。

歯科口腔外科学では以上のようなことを勘案し、タンパク質の代謝が円滑なのかを推察します。特に歯周病・インプラント・顎関節など、骨や歯肉という代謝する細胞を扱う分野での栄養は重要で、治療や長期予後戦略に役立てます。

現在も低栄養やタンパク代謝低下の危険性はほとんど知られていません。手術や材料の技術が上がったこともあり治療成績は決して悪くないので、栄養はとりたてて重要ではないと思われています。

ただしそれは5年予後くらいの話で、例えばインプラント周囲炎が目立って増えていることを考えても、対策としてもはや栄養は無視できない存在です。

また、最近多いと感じるのですが、大きなムシ歯の治療でもないのに、神経が損傷して抜髄になってしまうこと。これはまだ測った事がないのですが、隠れ栄養失調が絡んでいるのではないかと思っています。

ビタミンB群を適正量に保ちタンパク代謝を正常に近づけることは、栄養医学療法の基本的なことなので、サプリメントの出番が増えています。診療室ではヘム鉄と共に、常に在庫を切らさないようにしているほど重要な位置付けです。

ASTとALTはよくある検査であるにもかかわらず、本来の意味として活用されていないのが現実です。検査データがお手元にある方は上記を参考に、気になることがあれば栄養医学療法に詳しい医療機関で診ていただくことをお勧めいたします。

次回は、BUNについて書いてみます。