2014年6月22日日曜日

拡大鏡 vs 顕微鏡

日本臨床口腔外科医会・7



顕微鏡とよく混同されるのですが、メガネ型の拡大鏡(ルーペ)も臨床で有効な装置です。

拡大鏡は最近安価なものが増えており、低倍率のものであれば高性能なレンズを使う必要も無いので¥30,000くらいから手に入ります。

一方顕微鏡も最近安価なものが増えてきましたが、それでも最低¥1,000,000、長く使って行こうと思ったら¥3,000,000以上の投資が必要です。この価格差をもってして「別にルーペでもいいじゃないか」「顕微鏡なんて要らないよ」と言われる先生はたくさんおられます。

またルーペの方が手軽で取り回しが楽かもしれませんし、どこにでも持って行けます。しかしそれで顕微鏡不要論を振りかざすのも、ずいぶんともったいない話ではないかと思います。



「拡大して見る」という点では確かに両者は共通しています。しかし、、、それだけ、、、です。だから本来比較対象にならないと思います。

私は臨床で顕微鏡も拡大鏡も使っていますが、それはそれぞれに得手不得手があるからです(だいたい顕微鏡7・拡大鏡2・裸眼1って感じです)。簡単に列挙すると、
  1. 顕微鏡は拡大率が可変で3〜20倍程度まで自由
  2. 同軸照明なので、根管内など深く狭いところまで見える
  3. 見たままの画角で撮影やモニター出力ができる
  4. 顕微鏡は観察軸が可変で、裸眼や拡大鏡では不可能な方向から観る事ができる
といった感じでしょうか。この中でもっとも重要なのが4なので、少し補足します。


拡大鏡は裸眼と同じで、見る方向と見える方向が一致しています。前を向いていれば前が、下を向いていれば下が見えます。歯科治療ではだいたい下を向く事になります。

ところが顕微鏡は前を向いていても、見えるのは下だったりします。つまり自然な姿勢で下にいる患者さんの治療ができる、これは楽です。



そして下向きだった顕微鏡の鏡筒を水平に近づけると、今度は鏡を使わずとも裏側を観察する事ができます。通常術者は患者さんの顔に対し9~12時の位置に座りますが、その状態で3~9時の方向から拡大して観る事もできます。これを拡大鏡で実現しようと思うと、患者さんの上にまたがるか、患者さんを天井から宙づりにするしかありません。

見える方向が違う=視点が変わるという事で、顕微鏡を使う事で新しい術式も開発されてきました。これは大きな違いです。

顕微鏡と拡大鏡は決して対立関係にあるわけではありません。良い所を活かして適材適所で用いれば良い訳で、両者は相互補完の関係にあると思います。私のようにだいたいどんな治療でも一人でやる者にとっては、どちらもなくてはなりません。

顕微鏡を批判している先生のお話を聴くと、根菅治療を積極的に行っていないとか、使いこなせず手放したような方もおられるようです。診療スタイルは一人一人が違うのでそれはそうなのでしょうが、やっている事が違うのにいちいち批判することはないと思います。残念な話です。