2012年5月10日木曜日

第9回 日本顕微鏡歯科学会をやってきた・4 神経を残すという事


こちらからの続きです。今回の発表で用いたビデオの一遍をご覧いただきます。

「歯ってやっぱり生きているんだな!」と思わせるのがこれです。かなり大きなムシ歯ですが、手作業で丁寧にムシ歯をとって行くと、とつぜん出血と共に膿みが流れ出て来る様子がしっかり映っています。

歯の神経は血の流れがたいへん少ない、つまり酸素や栄養が入って行く量がとっても少ない所です。ですから大きなムシ歯でばい菌が入ってしまっても、それに抵抗する与力がありません。また溜まった膿もなかなか歯の外に出て行けず、内圧が上がり神経が死んでしまいます。

そこでこのビデオのように顕微鏡で見ながら最小限の穴を開け、意図的に内圧を抜いてあげます。つまり「膿み」が出てくる訳です。その後で抗菌剤や水酸化カルシウムを使うと、運が良ければ助けてあげる事ができます。

このビデオの02:40の所で細い針金で突っついているシーンがありますが、これは穴があき膿が出ていた部分が9ヶ月後に塞がった跡です。ばい菌の影響で死にかかっていた神経が立ち直り、自力で修復して行ったのです。(これを第三象牙質と言います)

このような非常に厳しいケースでも神経をとらずに済むというには、本当にすばらしい事だと思うのです。顕微鏡を使って丁寧にやってあげれば、今まで考えられなかったような路が開けるのです。

ただしそのためには半年以上の時間がかかるし費用もかかります。もちろんうまく行かない事だってあるのです。そこをご理解いただけた方に限って行われる、結果を急ぐ方にはお勧めできない治療です。

神経をとるのも選択肢の一つですが、とるならかなりしっかいとらないといけません。先にも書いたように「神経をとっても、ばい菌が残る」ことが多いからです。そうなるとその再治療はさらに困難なものになり、私は日々それに苦しんでいるのです。

ちなみにこのビデオの 00:10~00:39 でやっているのは、「隔壁」というものを造っている所です。これがないと薬が漏れたり、ラバーダムを装着する事が出来ないんですね。虫歯を取り除いたり、水酸化カルシウムを塗る以前に必要な操作です。歯を守ためには遠回りで地道な作業しか有り得ない事を、どうかご理解いただきたいのです。